奴からの手紙もこれで30を数える。今回少し間が空いたので心配したが元気そうだ。宛名の文字に力がある。
部屋に入り封を切る。封筒の文字とは裏腹に手紙の方の文字には乱れがあった。
俺は手紙から目を離し、何かを思い出そうとした。
俺は慣れない運転でいささか疲れを感じ始めていた。山深い田舎のクネクネと曲がりくねった道。緑が美しく思えたのは最初の一時間程だ。
助手席の泰俊(やすとし)は運転を代わってくれる素振りを見せない。
いつもはコイツが車担当(運転)だ。
堪らず少し広くなった道脇に車を止め、どうした?って顔の泰俊に言った。
「運転代わってくれ!!」
「康介(こうすけ、俺)・・俺は今、免停中だ。法を犯すことは出来ない。」
と言って合掌しやがった。こいつは寺の長男で将来は坊主だ。そして色んな意味で頼りになる。
「くぅ〜。お前。スピード超過で一発免停喰らっといて言う言葉か?それが?それでも坊主か?」 とくってかかる俺。
「俺はな反省してるんだよ。康介。二度と過ちは犯すまいってね。そんな俺をそそのかすお前は何だ?恥を知れ!!悪魔め。」
と涼しい顔で前方を指差す。
そこにはOOOまであと4キロの古びた看板。OOOは今回の目的地だ。
「ここまで来ておいて投げ出すとは・・・情けない奴だよな。仕方ない。お前の為に俺は再び罪を犯そう。」
とため息をつきやがった。
俺は一言・・「もういい。運転する。」 としか言えなかった。
なんだかんだでメチャクチャ長い4キロを走破して俺達は目的地の町(村?)に着いた。
ここでもう1人の友人であり、ここの出身者でもある友明(ともあき)と落ち合うのだ。
約束の場所は小学校の跡地。すぐにわかった。
会う人みんな年寄りばかりで、20代の若者は俺達だけって勢いで思いっきり過疎化って感じだが、みんな明るく朗らかだった。
友明がニヤニヤ笑いながら近づいて来る。
「お疲れさん。お?康介が運転か?んじゃもう少し休憩して出発するか?」
俺 「え?ここじゃねぇの?」
友明 「ん?ゴールはこっから一時間くらいの山の中。」
「友明・・運転・・」
「俺、ペーパー。危ないよ(笑)」
やっぱり今回の旅は調子が狂う。いつもは俺等三人が何らかの役割分担をし、お互いワイワイ楽しんだものだ。
だが今回に限り泰俊はダンマリだし、友明は何となく緊張している。
騒いでいた俺は運転で疲れ果てている。なんか違うだろ?
そう。 今回は観光でもバイトでもナンパでもない。
俺達は魔物を「封じ」にここへ来たのだ。
事の始まりは春、まだ少し寒い頃だったと思う。
部屋で泰俊とゲームだったかDVDを観ている時に、友明が訪ねて来た。
珍しく神妙な面持ちでチョッと力を貸してくれないかって言う。
なんだ彼女と喧嘩したのか?と言うとニカッと笑って「違うって」と言い直ぐに真顔に戻った。ちょっと驚きを感じて話を促すと、
「俺の地元の寺の住職が危篤なんだよ。」 と話し出した。
何でも友明の家はその地元の寺を支える四家の内の一家で、寺の住職が亡くなった時にある「御役」というものが代々あるとの事だ。
御役には四家の家長が着くのだが、友明の親父さんは病気か怪我で御役を務める事が出来ず、息子の友明が代行する事となったそうだ。
しかし正式な家長ではないので介添え人を三名まで付ける事が許されるのだと言う。しかし御役自体、特殊な行為を伴うらしく、
地元では介添え人が見つからず、異例中の異例という事で部外者の協力も可という事になったらしい。
俺は真っ先に思ったことを口にした。
「まさか、今の時代に坊主のミイラ造るの手伝えっての?」
友明は笑いながら、
「まさか・・・死人相手ならまだ楽。相手は魔物だよ。住職の死肉を喰いに来る魔物の封じが御役なんだ。」
と恥ずかしそうに言った。
しばらくの沈黙・・・・
俺 「嘘だろぉ〜」
友明 「いや、マジ。お前等は何もしなくていい。多分ただ見ているだけで終わると思う。ただ多少決まり事があるからその話合いを他の三人の御役として、その通りに動けばいい。俺達が魔物に襲われる事は絶対にない。最悪、熱出して2〜3日うなされるだけ。」
正直、なんかこうもっとアクションがあると思った。こういう場合決まって御札で守ったり、呪法があったり、結界が・・。
そんなものはこれと言ってないそうだ。ある場所から魔物が出てくるから、それをある方法で封じるだけ。俺達介添え人はその場にいるだけでOK。単なる魔物見物だ。
ただし、見える見えないには個人差があるという。俺は好奇心で行くことを決めた。多少、霊感のある泰俊が考え込んでいたので少し不安になったが結局、泰俊も行く事になった。
介添え人は俺達二名と決まり、友明は先に地元へ帰るという。
後日、地元へ帰る友明を駅まで見送りに行った。
友明は俺達に連絡したら直ぐに来てくれと念を押して電車へと乗り込んだのだ。
俺はとっさに 「あ、相手の名前なんてぇの?」と聞くと、友人は歪んだ笑顔を向けただけだった。
駅からの帰り道。泰俊は終始無口だった。この男の性格は決して暗くない。実家が寺だとは信じられないくらい明るいのだ。
「友明の奴なんで魔物の名前教えなかったんだ?」
空気を読めない俺は、多分、泰俊が無口になった原因の真ん中ストライクをズバリ聞いてみた。
泰俊は俺の顔をマジマジと見つめて、
「お前は馬鹿そうに見えるが、いざという時には頼りになる。今回のアイツの頼み事はお前が要になるかもな。」
「俺ってそんなに馬鹿そう?てか友明は危険はないって言ってたじゃん。」
俺が頼りにしている相手からの思いがけない信頼にちょっとビックリしながら言うと、
「あいつは女には嘘をつくが、俺達には嘘をつかない。でも危険がないならなんで地元の人間が見つからない?俺達の業界でも
忌まわしきモノの名は口に出さない。アイツが名前を教えなかったのは俺達の仲をもってしてもはばかられるモノだからとしか考えられん。
坊主が死んで出てくる奴だ。坊主の端くれの俺には相性が悪すぎる。」
「泰俊。じゃ〜なんでお前この話受けたんだよ?お前の話聞いたらマジでヤバそうじゃん。今からでも断るか?」
「お前な・・友明は俺達が行くって事になって初めて帰る決心がついたんだよ。アイツは地元の決まりから逃げられないみたいだからな。お前は知らないが俺は友明を裏切れない。」
「俺だってそうだよ。友明を助けたい。(80%は好奇心)でもお前はヤバいだろ?」
「今この決断で俺は親友を失いたくない。」
「泰俊・・・」
こいつの一言が俺の80%の好奇心をそのままそっくり80%のいや85%の恐怖心へと変化させていった。魔物見物。ちょっとした肝試し程度しか考えていなかった。
無口になる俺。
「お前って単純馬鹿だよな。実際。本当にからかい甲斐があるよ。」
いつもの笑顔で泰俊が言う。
「馬鹿にするな!」 とやり返し膨れてみせる俺。
話題は昼飯と女のことに移ったが俺の中の恐怖は何となく残ったままだった。
山門のあるチョッと立派な寺だった。入り口の前の広場に車を停め歩いて行くと寺内から60代くらいの男の人が出てきた。
「友明君、彼等が介添え人の方達かな?」
友明がそうだと応えて紹介しようとすると、その人は片手を挙げて制し、「名前なんてお互い知らなくていい。」 と続けて言う。
「ここでの事は原則、他言無用。しかし喋りたければ自由にしていい。どうせ誰も信じないからね。私自身、未だ見えないから。でも音だけは誰でも聞こえる。だからソレがいる事はわかるんだよ。さて、他の二人の御役が住職を見ているので、私は君達にこれからの事を簡単に説明する。この事の『云われ』や経緯は『封じ』が終わってからゆっくりと友明君からでも聞きなさい。じゃ〜こっち来て。」
この人の言い方には最初「カチン」ときたが、後から俺と泰俊の身を心配してくれていた事を友明から聞いて知った。
連れて行かれたのは寺の左側の裏にある石造りの古い井戸。
木製の棒が口を塞ぐように滅茶苦茶に置かれ、その上に竹製のカゴの様な物で覆われていた。この井戸に魔物が封じられていて、無秩序と秩序で封をしているとの事だった。
しかし、この封は住職が死んで七日目の夜に解け、中から魔物が住職を喰いに出てくるそうだ。要するに直接の俺達の仕事は新しく封をする事で、新しい木製の棒を井戸の口にランダムに置き、その上にカゴ(カゴメというらしい)を被せるだけ。
ここで木の棒はキャンプファイヤーの時のように歪な格子状に置くのだが、一段目に七本。二段目に七本というふうに全部で七段組むように言われた。ただし六段目のみ八本の棒を使うように指示され、その八本目の棒一本のみ特別で何かの呪いが仕掛けているとの事だった。
残りの四十九本の棒はこの一本を護るダミーだ。ちなみに何段目にその一本を入れるかは毎回異なり、しかも一度封をしたら後は古くなって朽ちるにまかせるだけだという。次回の封は次の住職が亡くなる前にして、亡くなると再度、封をする。住職が亡くなる前後二回のみ井戸に
封じをするという事らしい。道理で木の棒が新しい訳だ。
一つ疑問に思ったので聞いてみた。
俺 「この封じをする時は、俺達居なくて良かったんですか?」
おじさん 「いきはよいよい、帰りは怖いってな。この封じは住職が死ぬ三日前に造ったもので「死蓋」(しにぶた)と言ってあまり力が無いんじゃよ。棒も一本足らん。住職が死んで力が強くなった魔物を再び封じる為にワザと破らせるものだ。そこで君達に組んでもらうモノは「生蓋」(いきぶた)。これは本当に出られんようにする封じじゃ。これが大切。」
「生蓋」をするのは「御役」の四人の中の一番若い者の仕事で当然、友明な訳で俺達な訳だ。大体の俺達の役割は理解出来た。多分いや絶対一番重要な役だ。(友明はともかく俺達二人はサポートだが・・)
おじさん「それじゃ本堂に行って住職を拝んでこよう。それからメシだっ。」
夕食前に遺体を見るのは勘弁だったが、普通に棺桶に入っていてチョクで見ることはなかったし、他の二人の御役は座ってお経を唱えていた。
今日で死後六日目の遺体。想像しただけで食欲は無くなったが、それを察した友明が「ちゃんと防腐処理してるから思ってるより綺麗だよ」とボソッと小さく言った。
寺の座敷でくつろいでいる所へ、年配の女の人が握り飯と味噌汁、簡単なおかずを差し入れてくれた。俺等を見ると
「産助殿(さんすけどん)ご苦労さんです。」 と口々に言う。
俺 「さんすけどんって何?」
当然、友明に質問。答えは何故か泰俊から返ってきた。
「多分、産助殿だろう。お産を助けるって意味だと思う。」
友明 「その通り。そんでやっぱ変って思うだろ?」
俺 「何が?」
友明 「だって魔物封じする俺達が産助殿だぜ?」
俺 「あぁ・・でも、そうか・・」 考えがまとまらない。
泰俊が握り飯をつかみ中に入っている梅干を取出して食べ始めた。
泰俊 「封じの経緯なんか聞きたい所だがヤッパ終わってからなんだろ?」 梅干の味がしたのか顔をしかめた。
友明 「ああ。余計な知識が無くても出来る事だし。アイツみたいに好奇心の塊みたいなヤツは知ったら知ったで何かしそうだしな。」
ワザと俺を見ずに友明が言う。確かに。自分でも納得したが、心の中にいまだある不安というか恐怖というか微妙な感情に俺は気付いた。
とにかく明日の夕方まで暇な訳で、(友明は忙しいみたいだが)俺と泰俊は寺内を散歩して暇をつぶした。そんな時、本堂の仏さん(住職)に線香をあげていると、泰俊が天井の方をジィッと見上げている。
俺も興味を引かれ見てみると横木が渡してあり、そこには木の札が二十数枚張られていた。
「おお〜これは!!」と思っていると
「代々のこの寺の住職の名前じゃよ。」 と後ろから声がした。井戸へ案内してくれたおじさんだ。
「右端が初代。この封じの当事者の名だが、なかなか達筆で読めんだろ?確か今回亡くなった住職の二十六〜七代前だ。」
言うだけ言うとおじさんは廊下へ消えた。
名札を数えたが二十四枚しかなかった。案外アバウトでホッとした。
だが、泰俊はその初代という人の名札を凝視したまま動かない。
「知ってる人?」
「ああ・・」
「ええぇ〜マジ?」
「・・・お前はチョッと引っかかり過ぎ!ワザとかよ?」 笑う泰俊。
今の泰俊には余りにも似合わない笑顔だった。
辺りも暗くなり俺達の部屋にはすでに布団が敷かれてあった。友明は他の御役達と交代で寝ずの番だそうだ。部屋を出るとき
「今夜あたりから『音』が聞こえ出すけど気にすんな。」 とだけ言って行った。
寝て辺りが静かになると直ぐに『音』が聞こえた。
『音』というより『鳴き声』だ。「ミャーミャー」「ニューニュー」みたいなまるで子猫の鳴き声で、猫大好きな俺は思わず跳ね起きる。単純に暇だから遊ぼうと思ったのだ。
俺の膝を泰俊の手が押さえる。痛いくらいに力が入っていた。
「猫じゃねぇ。絶対に外には出るな。」 押し殺したような低い声。
一瞬寒くなり、俺は布団に戻った。甘ったるい、何とか助けてやりたい気分になる子猫の声だ。多分猫好きの人にはわかるだろう。
『声』さえ気にしなければ何という事もなく気がつくと朝になっていた。多分車の運転疲れもあったのだろう。
顔色の悪い泰俊はすでに起きていた。いや一睡も出来なかったそうで、「お前のキモの太さは凄い。」 おはようの挨拶の前の一言だった。
昼になり、いよいよ夕方になって俺はこの件でこれまで一番の衝撃に見舞われた。例の井戸の前の大木に人が吊り下げられていたのだ。
正確に言うと住職の遺体が。
落ち窪んだ目。アゴを縛られているが微妙に開いている口。青白く背中一面黒く変色した体。
どこか物見遊山的な気分は消し飛んでしまった。
俺達は魔物を『封じ』に来たのだ。
住職の遺体には、藁で編んだ「しめ縄」の様なヒモが無数にかけられ地面へと伸びていた。地面は黒く汚れていて多分住職の内容物だと思うが、その割、嫌な臭いはしていない。周りにはCの字型に薪が積まれ魔物が出てきたら隙間口を塞ぎ、住職の遺体を降ろして一緒に燃やすのだそうだ。そして遺灰と住職の遺骨の一部を井戸に入れ封をする。 これで終わり。
単なる変わった火葬に付合わされているだけかも知れない。
地元の人は確かに嫌だろう。
夜の8時頃、それは起こった。
また子猫の声が聞こえたかと思うと、竹カゴのせいで見えにくいが井戸の上にある封の棒が下から突き上げられる様に小さく振動を繰り返している。「ガシャガシャ」と音がするのだ。
しばらくすると1本、2本と棒が地面に落ちだし、その数が20本を越えた頃、今度は竹カゴがバリバリと音を立てた。まるで中のモノが外に出ようとしている様に。
息を止めて見守っていると、「バリバリッ」と一度大きな音をたて竹カゴが地面へと転がった。
「ゴクッ」っと生唾を飲み込む俺。
「ミューミュー」と声が相変わらず聞こえ、ポトポトと何かが落ちる音がして子猫の声はだんだんと吊り下げられた住職の方へ近づいていく。
姿は見えないが、そこには確かに何かがいる。これが魔物だろう。
今更ながらに気付いたのだが、子猫の声は一つではない。何十匹分という声が聞こえている。
俺は幸いにもかがり火で照らされた地面に何も確認出来ない。見えないのだ。いつの間にかあれ程見て見たいと思っていた魔物の姿を見ずに済んで「ホッ」としている自分に気が付いた。
同時に隣に泰俊がいる事に気付き、顔をのぞき込む。
泰俊は今まで見た事もない表情をしていた・・・・。
俺はとっさに腕を取って後ろに下がらせ、泰俊は「ハッ」と気付き、俺に「すまん」と礼を言った。
俺 「お前、まさか見えたのか?」
泰俊 「ああ・・・こいつはヒドイ・・・」
言ってるうちに遺体を吊るした大枝がメキメキと音を立てだした。思わずそちらを見る泰俊。だがすぐに目を伏せる。俺も見たが、風も無いのに遺体がクルクル回りだし、垂れ下がったヒモが不気味に動いているだけだった。
しばらくして、友明を含む4人の「御役」がCの字の口を薪で塞ぎだした。
塞ぎ終えると、お経や鉦を鳴らし住職を吊るしたヒモの元を切って遺体を地面に落とした。「ドシャッ」 何かが潰れた音だ。ふと遺体損壊とかで捕まるんじゃないかと思ったな・・・。
4人の御役は住職の遺体の上に木屑や薪、藁などを入れ火を付けると思いのほかすぐに大きくなり、いつの間にか子猫の声も絶えていた。これからの仕事は遺体が骨になるまでの火の番で、目の前で直に人を焼いている。なるほどトラウマになりそうだ。
明け方近くなってようやく火葬が済み、俺達は火に酔ったみたいにトロンとしていた。多分睡魔もあったと思うが、しかし眠いとは思わなかった。木製の箱にあらかたの遺骨を納め、残った骨は灰と一緒に集められ俺達の所に持って来た。
「さて、これで最後じゃから頼むの。」 おじさんの声。
うなづく友明が遺灰を受け取り井戸の中へ撒いた。残りの3人の御役はお経を唱え続けている。俺と泰俊は友明の所へ行き封の手伝いをし、20分で終わった。
魔物封じ終了。
井戸のかたわらに立ちすくむ泰俊を見ながら俺はビビリも入ったが楽勝と思っていた。辺りは既に明るくなってきている。
本堂の辺りで声が上がり見てみるとメシの用意をしてくれた女の人達が今度は大量の塩を持ってやって来た。自分達も含め庭一面を清めるのだそうだ。布の袋に入った塩を2つもらい、1つを泰俊に渡そうと近づく。泰俊はまだ井戸に居る。
またさっき見せた表情になっていた・・・・
「おい!!泰俊!」 思わず叫ぶ。
ゆっくりとこちらを向き、
「封は終わったんだよな?なぁ・・多分・・あれは・・康介・・女の子がいた・・」
目を閉じ頭を抱え、
「4〜5歳位の裸の女の子。だけど左肩から1本、右の脇腹から3本、蜘蛛の足が・・・飛び出していた・・。それでな・・左の首筋に蜘蛛の頭がついてるんだ・・・。井戸の横に居て・・アイツも一緒に封じたんだよな?・・。」
俺 「まだいるのか?」
泰俊 「いや・・もう居ない・・竹カゴを被せたら消えた。」
胃がキューッと締め付けられた。
俺 「だったら・・大丈夫だよ。」 何の根拠も無い返事。
その夜、泰俊は高熱を出した。
2日間、友明の実家に世話になり、俺達は帰路に着いた。帰りは友明も一緒で今回のせめてものお礼という事で運転をするとの事。
助手席の景色はまた違うなと余裕を見せる俺。市内に入りシートベルトを握り締め「ブレーキ!ブレーキ!!」と叫ぶことになるとは、この時は思ってもいなかった。(笑)
帰りの車内で元気になった泰俊は自分が見たモノを絵に描き俺達に説明した。友明は魔物の姿形を知っていて「本当に見ちまったのか・・」と同情していた。
コンビニのおにぎり大の赤ん坊の頭に人の手足や蜘蛛の足が無作為に付いているらしい。下あごの元辺りから生えていて動きは鈍く、よく引っくり返っていたそうだ。目は何故か皆閉じていて、口は本来ある場所には無く、あごの先の裏に付いていてヤツ等が転んだ時に良く見えたそうで、鳴き声は俺も知っている子猫の様な声。
そんなのが何十匹も住職の遺体に取り憑いていたそうだ。
そして火葬が始まると一斉に鳴くのを止め、目を見開いて血の涙を流しながら御役達を見つめていたと言う。
これを聞いて友明は言葉を失ってしまった。
何故か泰俊は井戸の横に居た『女の子』の話はしない。俺もふれなかったが・・。
俺等は一応、無事に帰りつけたと思っていた・・・。
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