For my eternal memories

僕は若いのに似つかわしくなくアンティークに興味津々である。だからその机を見つけた時は小躍りしたくなった。英国仕様で百年は優に経っていた掘り出し物が破格に近い値で売られていたからだ(もっとも貯金のかなりを割かなければならなかったが)

その逸品を自宅に運んでから数日後の事。僕はその机の引き出しの奥に妙なものを見つけた。

…?おかしいな?家に運んだ初日に入念に手入れした筈だが…?

それは一通の手紙だった。それも全体がかなり古ぼけて褐色に煤けていた。前の所有者の遺物か?いや買った時に隅から隅迄掃除した時にこんなもの無かったな…?

破かない様に注意深く開けてみると、中身は幾分ましだった。それでもかなり煤けていたが…

手紙は英文で書かれていたが、幸い難解な単語や言い回しは少なかったので辞書と首っ引きで内容を把握出来た。

中身は何とラブレターだった。僕を、好きです愛してますといった事が綿々としたためてあった。



何だこりゃ?考えにくいが僕が見落とした前の所有者の遺物か?それにしても随分古そうな手紙だな…

その時はそれぐらいしか考えなかったが、手紙の最後の署名に目が止まった。


Helen Elizabeth


数日後。再び引き出しにあの手紙が入っていた。勿論一通目を発見した後に改めて自分の物以外は何も無い事は確認済みである。

またもや古ぼけて褐色に煤けた、僕に対する恋文だった。署名も前回と同じく


Helen Elizabeth


何だか気味が悪くなってきたな…こんなご時世だからまさかストーカーでも留守中に侵入してるのでもあるまいな…


翌日僕は部屋にビデオカメラを仕掛けて仕事に出掛けた。万一侵入者がいたとすればバッチリ捕らえられる訳だ。


帰宅してすぐにビデオを再生してみた。どこかで聞いた様な光景だな等と思いつつ早送りで見てみると…僕が部屋に入って来る迄何の変化も無い。やれやれと引き出しを開けると





三通目が入っていた。


驚愕に生肝を抜かれるとはこの事か。この部屋には朝僕が出てからさっき僕自身が帰ってくる迄誰も出入りしていない。勿論朝には机に手紙等無かった…





言い知れぬ恐怖の様な感情に襲われた。



その日からも毎日ではないが手紙は来続けた。念の為ビデオ録画も続けているが一向に異常は無い。そうなると妙なもので僕はその手紙が来るのが少々楽しみになってきた。少なくともどこぞの異常者が送ってきている訳ではないし、内容は貴方に恋焦がれてます、とくれば悪い気はしない。それにこの手紙自体状態からしてかなり前に書かれているのは明らかだった。まるで遠い過去から送られている様に思えた。



ある日僕は我ながら酔狂な真似だな…と思いながらもその手紙に返信する事を思い立った。Helen Elizabethからの熱い想いの応えを辞書と格闘しながら仕上げた。自分も貴女を愛してると…携帯メール全盛のこのご時世にビジネス上でも儀礼上でもない手紙を書くなんていつ以来だろう…僕は返信を引き出しにしまった。



翌日。部屋に帰ってきて机の引き出しを開けると僕が書いた返信は見事に無くなっていた。こうなるともう気味が悪いのを通り越して僕はSFの中にいる様な高揚した気分になった。Helen、返事待っているよ♪



Helenからの返事は二日後に入っていた。相変わらず古ぼけた今にも破れそうな手紙だったが、驚いた事にちゃんと僕からの返事を踏まえた文面だった。もう事の真相なんて大した興味は無かった。僕はHelenとのやり取りに夢中になっていった。お互いに逢った事も無い(それは多分不可能だろう)相手にこんなに恋する事が出来るとはね。








ある日突然Helenからの手紙が途絶えた。もう引き出しに三ヶ月入っていない。おかしな話だが何だか現実に失恋した様な気分になった。もう入っている事はないのか…とちょっとした喪失感を覚えながら僕自身も最後にするつもりで

「一度逢いたかった」


と書いた。それからこの不思議な出来事を忘れる迄余り時間はかからなかった。
























最後の手紙を出してから半年は過ぎていた夜、僕は机でPCを操作しながらディスクを出そうと、視線はディスプレイに向けたまま手探りで引き出しの中を探ると、小さな物に指がぶつかった。



何だこれ?と取り出すと、それは黄金色のロケットだった。開いてみると、セピア色の写真が中に納まっていた。



若く、美しく、上品な若い女性だった。昔風の洋装に身を包み、優しげな微笑をたたえていた。



ロケットの裏側を見た。そこにはハッキリと刻まれていた。





Helen Elizabeth



その下に小さくこう書かれていた


For my eternal memories(永遠の想い出の為に)




Helenはあの時の僕の願いを聞きとげてくれたのだった…





 その日から手紙が来る事は二度と無かった。



















 あの不思議な出来事から何年経っただろう。僕は今霧雨に煙るロンドン郊外の墓地に立っている。ここに辿り着く迄どれ程時間を要した事だろうか。Helen、やっと逢えたね…



墓碑銘にはこう刻まれていた。



Helen Elizabeth 1874〜1899


僕は花束をそっと置いた。あの、Helenからの最後のメッセージを受け取ってから片時も忘れた事もない言葉が刻まれているその上に。









For my eternal memories(永遠の想い出の為に)




僕も永遠に忘れはしない



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posted by オカルト・都市伝説 at 12:00 | 管理人オススメ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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