大学1年の春。
なじみのバイクショップのツーリングに参加した時の事。
今日の行先は奈良・大台ヶ原のちょっと手前にある小処温泉。
トップはベテランの滝さん。2番手をバイク歴2年目の健太が行く。
本人は一番手に行きたかったらしいが、団体の時は、ペースメーカーになれる人間が
先頭を走らないと、どえらい事になるから、却下されたらしい。
今日のメンバーは割に老頭児が多いので、行かせてやってもいいんじゃないかと
一応言ってみたが、『健太は熱くなるからダメ』と先輩諸氏に否決された。
俺は久々にトリ(最後尾)を行かせてもらう。
目的の山鳩の湯までは何度も行った事がある。当然、途中で休憩する所も全部わかって
いるから、多少ライン(車列)が切れたところで何にも心配ナシ。のんびりゆったり。
一方、健太は、市街地はおとなしく走っていたが、山間に入り、他の車輌が少なくなって
来たらもうどうにもガマンがならず、トップを抜いてさっさと行ってしまったらしい。
俺が最後に喫茶店へ入った時、奴さんはみんなから意見されている真っ最中だった。
「おまえな、団体の時は団体らしくしなきゃダメ」
「あー、だってかったるくて…」
「ばか。みんなで行ってる時にテメェ勝手に事故ったりしたら、周りに迷惑かかるって
事ぐらいわかんねェのか。」
「まったく、ヘビでも踏んだらどうすんだ」
「え、ヘビ?なんで?踏んじゃったよ?」
健太のあっけらかんとした一言に、ベテラン・中堅連中が固まる。
他所ではどうだか知らないが、ウチでは伝統的に、春の山でヘビを踏んだ奴は絶対に、
どうって事のない場所で転倒し、そのままバイクごと崖から転落する。単独、団体に
かかわらず、例外は無い。
そう聞かされても、健太は怖がることなく、反対にケラケラ笑っている。
「ウソだよ、そんなの。メェーシンだ」
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