【花魁淵】
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塩○市の奥地、花魁淵に来ていた。今は深夜1時過ぎ。まだ少し昼の暑さが残っている。
この場所は、関東の西では有名なスポットだ。戦国時代、武田信玄の軍資金源となった
「黒○の金山」が近くにある。
武田氏滅亡の折、この金山の秘密を守るために、五十人以上居た近くの遊郭の花魁を集め、
張り出して設置した舞台もろとも、川に丸ごと沈めて皆殺しにしたという場所だ。
最後まで読むと祟られるという、碑看板の近くに止めて、車を降りた。
今回のメンツは、いつもの通り嬉々としてツアーを取り纏めたモリヤマくんを筆頭に、
男3人(モリヤマ・おいら・アシスタント仲間のAくん)と女2人(おいらの彼女・
Aくんの彼女Bさん)の編成だった。
言葉少なに、花魁の霊を鎮めるお堂までの道を降りる。周りの崖がどんどん高くなる。
中ほどまで来たとき、何かの囁く声が耳元で一瞬聞こえた。不安に思って辺りを見回す。
見ると、みんなも同様だった。みんなにも聞こえていたのか。いや、気づいたのは男3人
だけだった。女には聞こえなかったのか?何故だ?
「下見ろ、下!ライト消せ!」モリヤマくんが、おいらをつついて囁いた。
懐中電灯を消して、こそこそとしゃがみこみ、藪の中から崖の下を覗き込む。
まだ深い崖の底に、真っ黒な川が流れて、仄暗い淵を作っている。しかしほぼ真上にある
月明かりのおかげで、角度によってはテラテラと光る水面もあった。
ここからの距離は50メートルくらいか。
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