【出土品】
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「お兄ちゃんの知り合いのあの子なあ、アレとはイマイチ合わん」
上野の飲み屋で、味噌鍋を二人でつつきながらヒレ酒を呑んでいたとき、急に広島弁の
ジイさんに言われた。最初、何を言っているのか判らなかった。
どうやら、最近ここに飲みに来るミカドさんのことを言ってるらしい。
この広島弁のジイさんは三船敏郎声のヒッピー崩れ。
「ごめんねバアさん」の時、空襲で死んだ女の子の憑き物を抜いて貰った恩人だ。
だが、ふざけているのかヒネくれているのか、自分の名前を絶対に明かさない。
店の大将も教えてもらえてないそうだ。そのくせ、お爺さんと呼ぶと怒る。始末に悪い。
一方ミカドさんは、変な踏切で助けた訳アリ女子大生だ。ここを彼女に紹介してから、
このジイさんとも何回か顔を合わせていたが、当の店の大将がそういった話をあまり
好まないので、お互いにオカルトな話題は振らせない様にしている。
彼女の『スタンド』と呼ばれる、大きな黒い口のワニの化け物の話題にも、今ひとつ振り
切れていない。そこのところは残念だ。
「あの子って、ミカドさんの事ですか?」
「帝?大仰な名前じゃのう」
「違いますよ。三門と書いてミカド。大仰でも何でもないでしょ」
「変わらん。空門、無相門、無願門で三門。三解脱門じゃ。知らんのか?」
…このジジイ、こういったことは変に詳しい。実際、何をしていた人だろう?
というか、その前にいい加減あんたの名前を教えろよ。話し難くて仕方ない。
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